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『肉・卵・チーズで人は生まれ変わる』渡辺信幸著 主婦の友社
食に意識が高い人は、MEC食というのを聞いたことがあると思います。
MEC食というのはそれぞれの食材の頭文字をつなげたものです。
MはMeat、EはEgg、CはCheeseになります。
つまりMEC食というのは、簡単に言えば、肉と卵とチーズを優先的に摂取する食事法のことです。
この本『肉卵チーズで人は生まれ変わる』の著者、渡辺信幸さんは、元々名古屋出身の医師でしたが、離島医療を志して、沖縄の伊良部島に医師として赴任したのです。
島の住民7000人の主治医となったのですが、毎日診療に追われる日々の中で、予防医療の必要性を痛感し、食生活の改善に乗り出したのです。
というのも、沖縄は長寿の島といわれていましたが、肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症の患者さんの数が増加の一途を辿っているという現実でした。
そこでそのような生活習慣病を予防的に改善するために、このMEC食というものを考え出したのです。
この本は、そのような環境の中で、渡辺医師があみだしたMEC食の意義についてその一部を紹介するものです。
MEC食で必要な栄養素が”ほぼ”とれる
肉と卵とチーズだけ食べていればいいといわれると、普通の人は野菜も入っていないし、バランスが悪いんじゃないのと思うのが自然な反応だと思います。
しかし渡辺医師が指定する量が摂れれば、MEC食は厚生労働省が推奨している日本人の食事摂取基準の1日あたりの栄養素を「ほぼ」満たすことができます。
渡辺医師が薦める具体的なそれぞれの食材の一日目安量は、肉は200g、卵は3個、チーズは120gです。
肉200gというのは、一般的なステーキというのが180g程度なので、それより少し多いぐらいの分量になります。
チーズ120gというのは、あの雪印の丸い紙パックに入っている6Pチーズが丁度120gにあたりますので、あれを一箱食べればよいということになります。
これで現代日本人にとって不足しがちな動物性たんぱく質と脂質が、必要にして十分に摂れるのです。
この配分量は必ずしもその通りに食べないといけないというコトではなく、トータルでたんぱく質と脂質の必要量をとってほしいということです。
でも肉や卵、チーズでは太ってしまうのでは、と考える人も多いでしょう。
しかし渡辺医師はこれにも明確にNOといいます。
脂質を摂りすぎたとしても、脂質がそのまま皮下脂肪や内臓脂肪となって体につくことはないといいます。
食べた資質は、体内で分解されて、脂肪酸とグリセリンになり、糖質よりも効率のいいエネルギーとして消費されます。そして、必要以上の脂肪は吸収されることなく、身体の外へと排出されます。
脂質はそもそも細胞膜の原料となったり、代謝や神経伝達などを調整するホルモンの元になるものです。
なので脂質が不足すると、肌荒れやアトピー性皮膚炎、生活習慣病、うつなどの様々な疾患の原因にもなります。
ところで、このMEC食で基礎的な栄養素は摂取できますが、それでも”ほぼ”という点に注意しましょう。
不足するのは、やはり野菜などからとれるビタミンCです。
MEC食では野菜への評価は高くない
野菜というと、今では健康食の代名詞みたいな存在です。
しかしMEC食では野菜への評価が高くない、というよりもぶっちゃけかなり低いということです。
ここがMEC食を特徴付けている点ではないかと思います。
渡辺医師が野菜をあまり評価しないのにはもちろん理由があります。
理由の一つは、野菜は肉と比較して消化しにくい食材だということです。なぜ消化しにくいかというと、
食物繊維とも呼ばれるセルロースを分解する消化酵素は、人の体内にはないのです。
野菜の細胞壁はセルロースでできており、俗にこれが食物繊維にあたるのですが、食物繊維は消化しにくいのです。
それでは肉はどうかというと、肉にはコレステロールでできている細胞膜はありますが、細胞壁はないのです。
なので肉は野菜より消化しやすくなっているのです。
じゃあ炭水化物である”ごはん”はどうかというと、これも肉と比較すると消化しにくい食べ物だといいます。
炭水化物を消化してくれる酵素は唾液に含まれるアミラーゼですが、胃にはアミラーゼはないので、胃の中ではごはんは消化されないわけです。
カゼをひいたときにおかゆなどを食べるように、本来胃の負担をかけないためには、ごはんは水分を加えてふやかして食べないと、消化しにくい食べ物だといえるのです。
このことは野菜を摂りすぎると便秘になりやすいことを意味します。
MEC食は便秘の原因となる消化しにくいものはあまり摂取しないので、快便になるのです。
とはいえビタミンは摂らないといけないので、渡辺医師も野菜はいらないといってるわけではありません。
ブロッコリー、ゴーヤ、パプリカなど、ビタミンCを多く含み、糖質を含まない野菜の摂取で補充することを薦めています。
糖質制限食としてのMEC
それではごはんなどの炭水化物=糖質はどうでしょうか。
MEC食は、そもそも離島の住民の生活習慣病を予防するために考案されたものですから、糖質は好ましくありません。
余分なのが体外に排出される脂質とは違い、炭水化物は体内で紹介されてブドウ糖となり、エネルギーとして使用されずに余ったブドウ糖は中性脂肪に変わります。
渡辺医師は、現代人の食事は炭水化物過多で、必要な栄養分であるたんぱく質と脂質が不足している状態だと認識しています。
栄養失調状態でありながらエネルギー過多という非常にいびつな状態にあるのが、現代日本人の食生活だという認識から生まれたのがMEC食なのです。
炭水化物が問題なのは、もう一つあります。それは糖質の中毒性です。
糖質は摂ればとるほど血糖値の変動を促します。糖質の摂取によって一時的に血糖値が急上昇した後は、今度は急激に下がります。
血糖値が下がると、身体は糖質を求めます。このサイクルによって糖質への渇望が生まれてしまうのです。
特にたんぱく質や脂質が不足していると、身体な栄養素が足りないので空腹感を覚えてしまいます。
これを炭水化物で満たしてしまうと、一時的には空腹感はなくなりますが、根本的な解決にはなっていないので、常にエネルギー過多なのに空腹感が残るといった感じになってしまうのです。
MEC食が糖質制限食と何が違うのかについて渡辺医師は、
MEC食は基本的に禁止・制限はありませんが、MEC食を実践することで、自然と糖質を制限することが可能です。
糖質制限がまず糖質の量を抑えることを目的とするのに対して、MEC食はまずは必要な栄養素であるたんぱく質と脂質の充足をはかるという入り方の違いがあると考えられます。
一回の咀嚼に30回よく噛むこと
MEC食に忘れてはならないのが、よく噛むことです。
渡辺医師も、MEC食に”食”がついているのは、この噛む行為を重要視しているからだといいます。
一口30回というのが、MEC食の合言葉です。これを渡辺さんはカムカム30と呼んでいます。
なぜ30回かというと、
30回というのは、食べ物のかたちがなくなり、唾液とまざって液状になって、自然とのどへ流れるくらいになる、ひとつの目安です。
MEC食とは、肉卵チーズをよく噛んで食べることで完成するのです。
よく噛むと満腹中枢を刺激して満腹感が得られるといいますが、MEC食もそれを狙っています。
渡辺医師は、肥満の患者さんを観察するなかで、やはり早食いの人が多いこと、ほとんどかまずに飲み込むような食べ方をしている人が多かったことに気が付いたのです。
個人的にMEC食について思うのは、MEC食が糖質過多、炭水化物過剰摂取の現代日本人の食生活へのアンチテーゼとして出てきたものだということです。
健康的なイメージのある野菜について多少批判的なのも、単にカロリーを減らして粗食にすればよいという間違った方向へ行きがちなダイエット思考への戒めでもあると思うのです。
体を構成するために必要な栄養素であるたんぱく質と脂質を中心にすえることで、生活習慣病を予防しながら活力のある身体をつくるのは可能だというのが、MEC食の要諦ではないかと思います。
MEC食については、ダイエットコラムでも言及していますので、参考にしてください。