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『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』松井忠三著 角川書店
無印良品というと、最近は世界進出も盛んで、海外でも名の知られたナショナルブランドです。
無印は元々はセゾングループのスーパー西友のプライベートブランド(PV)の一つでした。
無印が西友から分離独立した後、独自のブランド構築で店舗を増やしていきましたが、一度大きく業績が落ち込んだ時期があります。
その時に登板したのが、この本の著者である松井忠三さんです。
松井さんも元々は西友の社員でしたが、事実上の左遷で無印良品に配属されたのです。
そこで腐らずにコツコツと実績を積んだことで、最終的に無印良品の社長となったのです。しかし松井さんが社長に就任したときは、無印良品が経営危機に陥ったときでした。
そこで最初に取り組んだのは、賃金カットでもなく、リストラでもなく、事業の縮小でもなく、仕組みづくりでした。
仕組みづくりを具体的に言うと、次の3つの項目に分けられます。
- 努力を成果に結びつける仕組み
- 経験と勘を蓄積する仕組み
- ムダを徹底的に省く仕組み
これらの仕組みを構築するために作ったのがマニュアルでした。
そうです、マニュアルが無印を救ったのです。
最近ではマニュアルというと、指示待ち人間の代名詞としてマニュアル人間というように、あまりいい意味では使われませんが、無印のマニュアル化は松井さんの言葉でいえば、社員の血肉の通ったマニュアルなのです。
ここがマニュアルを作って終わりのほかの企業とは違うところです。
それまではセゾングループのカリスマ経営者だった堤清二氏の影響力もあり、西友も無印も個人単位の経験と勘に頼る組織に陥っていました。
なので優秀な社員が抜けてしまうと、後にはノウハウも何も組織には残らなかったのです。
現場で得たノウハウを個人の暗黙知どまりにしていないで、明文化して広く組織で共有することが徹底したマニュアル化の目的です。
優秀な個人の暗黙知的なノウハウやスキルをマニュアルに生かすことで、組織全体の集合知に変えていく、それが企業の競争力の源泉となっていくわけです。
この本『無印良品は、仕組みが9割』は、松井さんが社長時代にV字回復を成し遂げた際に取り組んだマニュアル化の意図を余すところなく公開してくれています。
これを読めば、学習する組織を地でいっているのが無印良品だとわかります。
無印の2000ページのマニュアル『Mujigram』
無印には2種類のマニュアルがあります。店舗用のMujigramと呼ばれるマニュアルと、本部用の業務基準書です。
Mujigramには写真やイラストも含めて2000ページにもなる内容を持ちます。さらに業務基準書はMujigramの3倍以上になる6600ページにも及びます。
この二つのマニュアルに、無印の業務のすべてのノウハウが詰まっているといいます。
社外の人にこのマニュアルをみせると、皆さんここまで書くのかと驚くそうです。
それぐらいこと細かく、徹底したマニュアル化をしているのです。
これはそのような目的を理解することで、その仕事が全体の中でどのような位置づけにあるのかを理解して、俯瞰してみることができるようになるからです。
マニュアルというと、センスが必要になるような仕事には応用が利かないと思われがちですが、無印ではむしろそういう仕事にこそ、マニュアルは効果を発揮するといいます。
たとえば店頭の顔となるマネキンのコーディネートなどは、ファッションセンスが不可欠な仕事のように思えますが、無印ではこれをたった1ページの中にポイント絞り込んでノウハウをマニュアル化しています。
- シルエットを△形か、▽形にする
- 使う服の色は3色以内
松井さんは、どんな作業にもうまくいく法則があるといいます。それを標準化したものがマニュアルになるのです。
マニュアルは常にアップデートして最新のものではなくてはならないといいます。
そのためには社員が常に問題意識をもって、現状の仕事を改善できる機会をうかがっていなくてはなりません。
またそのような機会を見つけたときに、会社に提言して即座に認められる風土が備わっていなければ、そのような”気づき”も生かされずに終わってしまいます。
松井さんは、作業の改善点が見つかれば、それをリアルタイムで見直す必要があるといいます。
マニュアルをつくるのにも相当な労力がかかるので、”守る”意識が生まれ、問題点が報告されても数年たってからようやく改良に着手するのが一般的だと思います。
松井さんは、これがマニュアルが使われなくなる最大の理由の一つだといいます。
無印ではマニュアルは常に更新され続けます。マニュアル化には終わりはないのです。
無印が目標としているのは、マニュアルに従うだけの社員をつくるのではなく、マニュアルを作りかえていけるような社員をつくりたいと思っているのです。
マニュアルは誰にとってもわかりやすくなければならない
マニュアルはわかりやすくなくてはなりません。誰が読んでもすぐに理解できるような仕様になっていることが必要です。
理想は新入社員が読んでもすぐに理解できるような具体的でわかりやすいマニュアルになっていることです。
そのためにはどのような語句も、社内で使われる言葉について、わかりやすい定義を与えておかなければなりません。
「それぐらいの言葉、みんな知っているのでは?」というレベルの言葉であっても具体的に説明することによって、例えばアルバイトの人でも理解できるようになります。
そうでなければ、社内だけで通じる符丁のようなものができて、閉鎖的な組織になっていきます。
Mujigramでは、冒頭の説明に「何」「なぜ」「いつ」「誰が」の4つの目的を紹介してから、マニュアルの説明に入っていくようになっているのです。
松井さんは、「売り場」という言葉を例にだします。
売り場とは、
何:商品を売る場所のことです
なぜ:お客様に見やすく、買いやすい場所を提供するため
いつ:随時
誰が:全スタッフ
ここまで明文化してはじめて、スタッフがマニュアルを体得するレベルになっていくわけです。
誰にでもわかるようにするには、いい例と悪い例を例示してあげることも大切です。
MUJIGRAMでは、売り場の商品のそろえ方について、いい例と悪い例を写真で説明しています。何が良くて何が悪いのかを一目瞭然にしておくと、判断に迷うことなく、誰もが同じ作業を同じようにできるようになります。
無印の陳列棚が整然としていてお客さんにわかりやすいように、従業員にとってもわかりやすいマニュアルでなくてはなりません。
そうでないと、社員がマニュアルを自分とは関係のないものとして扱うようになってしまうからです。
そうなるとマニュアルは組織の片隅でほこりをかぶった状態になってしまいます。つまり血の通わないものになってしまうわけです。
机の上がきれいな会社は伸びる
無印の商品を使った整理整頓や片づけの書籍もでているぐらい、今では無印は片付けのための欠かせないツールになっています。
誰もが店舗にいけば感じるのは、店舗商品の陳列もきっちりとしていることです。
まさにマニュアルの威力が出ていると思うのですが、実はかつては無印の本部の環境も、デスクの上がちらかっただらしない状態になっていたそうです。
クリアデスクや倉庫の管理は、単に整理整頓だけが目的ではありません。それに伴って、組織の風土や仕組みを変えることにあります。
デスクの上がきれいに片付けられているのは、そのような風土や仕組みがうまく機能していることの結果なのです。
もしそのような仕組みが機能していなければ、仮にデスクの上だけを片付けたとしても数日で元に戻ってしまうことでしょう。
僕自身、調子が悪かったり、生活習慣が崩れているときは机の上はちらかっていたり、掃除が行き届いていなかったりします。
そういう時は、体重が増えていたり、暴飲暴食をしたりして、食生活が乱れていることも多いのです。
体形がくずれだしたり、机の上が散らかってたりするというコトは、それらを支えている生活習慣が機能していないことの表出なのです。
自分自身のムジグラムをつくろう
自分はこの本を読んで、自分の生活習慣に置き換えて考えてみました。
松井さんの言う会社の風土や仕組みは、個人でいえば生活習慣にあたると思います。
習慣というものを、個人が普段何気なくやっている動作という範疇ではなく、個人が効率的に気持ちよく生活していく中で必要な仕組みの集積だと考えることで、松井さんの仕組みの考えを個人に応用できると思います。
ふだんの生活の中で常に効率の良い習慣を身に着けたいと意識しておけば、良い生活習慣を身に着けるのを阻害している要因が見えてくると思います。
松井さんは自分の考えを自身の健康管理に応用しています。松井さんは食べるのも飲むのも好きなので、油断しているとすぐに太るといいます。
体重が増えると、生活習慣を改めて食べるのを控えたり、節制したりして痩せて健康になるのですが、そのサイクルは会社と共通しているといいます。
松井さんは、どんなにその時点で良いマニュアルができても、更新し続けないと劣化していって時代に合わなくなっていくといいます。
自分のマニュアルをつくったり、部署内の仕組みをつくったりしても、それで終わりではなく、そこからがスタートです。常に問題の芽を摘みつつ実践を積み重ねていると、仕事の仕方も洗練されていきます。
自分の生活習慣を常に見直し、悪い癖や習慣が身についていないか意識してみることで、適宜修正を加えていくことができます。
これが生活習慣のアップデートです。
また他人がいいと思う習慣であっても、ほんとうにそれが自分に合ってるのかどうか考えなくてはなりません。
他人の良いところを見習う姿勢はとてもすばらしいのですが、他人と自分では体質も年齢も環境もちがうわけですから、そのまま取り入れてもなかなかうまくはいきません。
自分にあうような修正をしたり、色々試してみて自分に合った習慣を取捨選択して取り入れていく姿勢が必要です。
無印でも、他社のマニュアルを参考に取り入れようと努力したこともあったそうですが、なかなかうまくいかなかったそうです。
というのも他社と自社では当たり前ですが、業務も仕事の内容も、何もかもが違うわけです。なのでそのまま他社のマニュアルを自社にインストールさせようとしても、うまくいかないのです。
ですから、マニュアルは時間がかかったとしても、自分たちの手で一から作り上げていくしかないのです。
それを信じて作り上げていった人と組織にだけ、成果はもたらされるのです。